大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 昭和54年(ワ)336号 判決 1981年8月03日

原告

木村家康

被告

有安勤

主文

一  被告は、原告に対し、金二、三八六、〇一三円、及びうち金二、一八六、〇一三円に対する昭和五三年一〇月一〇日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し金四、九九八、六六七円及び内金四、三七八、六六七円に対する昭和五三年一〇月一〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき、仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  予備的に、担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五二年一〇月二四日午前七時一五分頃

(二) 場所 岡山市藤田二六二番地先市道上

(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(八八岡あ四九八一)

(四) 被害車両 原告運転の自動二輪車(藤田村き三七六)

(五) 態様 前記道路交差点(以下、本件交差点という。)を被害車両が西進右折する際、後方より直進してきた加害車両が衝突した。

2  責任原因

被告は、加害車両を所有し、右車両を自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による損害賠償責任がある。

3  受傷、治療経過等

(一) 受傷

原告は、本件交通事故により、右下腿開放性骨折、右肩関節部打撲の傷害を受け、昭和五二年一〇月二四日から昭和五三年六月三〇日まで(二五〇日間)医療法人洋友会中島病院で入院加療し、昭和五三年七月一日から同年一一月四日まで(通院期間一二七日、実日数七六日)同病院で通院加療した。

(二) 後遺症

原告は、右治療による症状固定後も、歩行困難、跛行、右膝関節の屈曲制限の後遺障害があり、右後遺症は自賠責保険一三級九号に該当する。

4  損害額

(一) 治療関係費

(1) 治療費 金四〇〇、二八〇円

(2) 入院雑費 金一五〇、〇〇〇円

入院中一日金六〇〇円の割合による二五〇日分である。

(3) 付添費 金一七二、五〇〇円

入院期間中、昭和五二年一〇月二四日から同年一二月三一日までの六九日分の一日金二、五〇〇円の割合による出捐である。

(4) 通院交通費 金二一、六七〇円

通院に要したタクシー代である。

(二) 逸失利益

(1) 休業損害 金一、〇八八、四九一円

原告は、熔接工として、一か月平均金九四、二五八円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和五二年一〇月二四日から昭和五三年一〇月九日までの三五一日間、休業を余儀なくされ、その間に合計金一、〇八八、四九一円の収入を失つた。

(2) 後遺症による逸失利益 金一、四五九、二二六円

原告は、前記後遺障害のため、その労働能力を一四パーセント喪失したところ、原告の就労可能年数は本件事故当時から一二年間と考えられるから、原告の前記収入額を基礎に右後遺障害による逸失利益をホフマン式(年別)計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、金一、四五九、二二六円となる。

(三) 慰藉料 金三、一〇〇、〇〇〇円

(四) 弁護士費用 金六二〇、〇〇〇円

ただし、被告に負担させるのを相当とする分である。

5  損害の填補 金二、〇一三、五〇〇円

原告は、次のとおり支払を受けた。

(一) 自賠責保険金 金一、七九〇、九二〇円

(二) 被告の弁済金 金二二二、五八〇円

6  よつて原告は、被告に対し、前記4の損害金合計金七、〇一二、一六七円から右5の損害填補金二、〇一三、五〇〇円を控除した残金四、九九八、六六七円、及びこれより弁護士費用金六二〇、〇〇〇円を控除した金四、三七八、六六七円に対する損害発生後(休業期間の翌日)である昭和五三年一〇月一〇日より支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、被告が加害車両を所有し、右車両を自己のため運行の用に供していたことは認める。

3  同3の事実中、(一)の事実は認めるが、(二)の事実は不知。

4  同4の事実は争う。

5  同5の事実中、(一)の事実および(二)のうち三、五〇〇円を認め、その余は争う。自賠責保険金の支払は、原告主張分以外に二一九、〇八〇円あり、合計二、〇一〇、〇〇〇円である。

6  同6項は争う。

三  抗弁

本件事故は、次のとおりの原告の過失が主たる原因となつて発生したものであるから、損害賠償額の算定にあたり、右原告の過失を斟酌すべきである。すなわち、原告は、本件交差点を右折するに際し、本件交差点の手前約四・三メートルの地点から、交叉道路に向かつて道路の斜め横断を開始し、衝突地点まで斜めに進行したが、

1  原告は、交差点の中心の直近の内側を徐行して右折すべきであるのにこれを怠つた。

2  原告は、交差点の手前三〇メートルより方向指示器等による右折の合図を行わなければならないのにこれを怠つた。

3  原告は、右折開始前に一度後方を振り向いて確認したのみで、その後は何ら後方確認を行わなかつた。

4  原告は、本件交差点の手前約三五・三メートルの地点において、最高速度の高い加害車両(当時時速五〇キロメートル)に自車の背後一八メートルに接近されたのであるから、道交法二七条二項により、できる限り道路の左側端によつて道路を譲らなければならないにもかかわらず、かえつて被告運転の車両の前方に進出して、その進行を妨害した。

5  原告は、本件事故当時、酒気を帯びて車両を運転していた。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実中、原告が本件交差点を右折する際その約四・三メートル手前から交叉道路に向つて斜め横断をはじめて右折したことは認めるが、その余の事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生と責任原因

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。そして、請求原因2の事実のうち、被告が加害車両を所有し、右車両を自己のため運行の用に供していたことも当事者間に争いがないので、被告は、本件事故につき自賠法三条による損害賠償責任がある。

二  原告の受傷、治療経過等

請求原因3、(一)の事実は当事者間に争いがない。そして、原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証及び原告本人尋問(第一回)の結果によれば、請求原因3、(二)のとおりの後遺症が存在することが認められ、右後遺症は自賠責保険一三級九号に該当するものと認められる。

三  損害額

1  治療関係費

(一)  治療費

原告の存在及びその成立に争いない甲第七号証、成立に争いない甲第一二号証、同第一三号証および原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は、本件事故による受傷の治療のため、医療法人洋友会中島病院に対し合計金四〇〇、二八〇円を支払つた事実が認められる。

(二)  入院雑費

原告が本件事故により二五〇日間の入院加療を要したことは当事者間に争いがなく、右入院期間中、一日金六〇〇円の割合による合計金一五〇、〇〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

(三)  付添費

原本の存在及び成立に争いのない甲第一ないし三号証、同第五号証及び原告本人尋問(第一回)の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、前記入院期間中六九日間付添看護を要し、そのために、一日金二、五〇〇円の割合による合計金一七二、五〇〇円相当の負担を余儀なくされ、同金額の損害を被つたことが認められる。

(四)  通院交通費

原告は、請求原因4、(一)、(4)の通院交通費金二一、六七〇円の損害を主張するが、原告本人尋問の結果によれば、右費用は原告の母親の危篤の際要した交通費というのであり、本件事故と相当因果関係ある損害とは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

2  逸失利益

(一)  休業損害

弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる甲第一〇号証、原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は熔接工として本件事故前三か月は一か月平均金九四、二五八円の収入を得ていたが、本件事故により昭和五二年一〇月二四日から昭和五三年一〇月九日まで合計三五一日間の休業を余儀なくされ、その間、別紙計算式(1)記載のとおり、合計金一、〇八八、五二八円の収入を失つたことが認められる。

(二)  後遺症による逸失利益

原告が前記の後遺症の固定した昭和五三年一一月四日において満五五歳であつたことは記録上明らかであるから、原告はなお満六七歳まで一二年間就労可能であつたものと推認されるところ、原告の被つた前記の後遺症による労働能力喪失率は九パーセントであると認められるから、前記の一か月平均収入金九四、二五八円を基礎に原告の右後遺症による逸失利益を年別のホフマン式計算法(係数九・二一五一)により年五分の割合による中間利息を控除して現価を算定すると、別紙計算式(2)記載のとおり、金九三八、〇八四円となる。

3  慰藉料

原告が本件事故による負傷のため相当な精神的苦痛を蒙つたことは容易に認められる。その傷害の部位、程度、治療の経過および後遺症の内容程度その他諸般の事情を考えあわせると、原告の右精神的損害に対する慰藉料額は金二、五〇〇、〇〇〇円が相当である。

4  以上の損害額を合計すると五、二四九、三九二円となる。

四  過失相殺

そこで、被告の賠償すべき原告の損害額を定めるために、被告主張の過失相殺について判断する。

1  原告が本件交差点を右折する際その約四・三メートル手前から交叉道路に向つて斜め横断をはじめて右折したことは当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実と成立に争いのない乙第一号証、同第二号証の一、二、原告(第一、二回)および被告(第一、二回)の各本人尋問の結果を総合すれば、以下の事実が認められる。被告(第一回)本人尋問の結果中、右認定に反する部分はたやすく措信できない。

(一)  本件事故現場の道路は、非市街地を東西に延びる直線の幅員五・五メートルのアスフアルト舗装市道で、中央線、路側線の表示がなく、北に延びる幅員二・四メートルの道路と三叉状に交差し、右交差点の南端にカーブミラーがある。したがつて、右交差点及びその手前三〇メートル以内は追越しが禁止される箇所にあたる。

(二)  原告は、自動二輪車で右道路を西進して右交差点を右折しようとしたものであるが、道路左端より一・七メートルの付近を時速約三七キロメートルの速度で進行し、交差点に近づく手前で一度後方確認をしたところ、後方より被告の車両が進行してくるのを認めたが、まだ余裕があると思い、右折の合図を点灯してやや進行し、交差点手前約四・三メートルの地点から斜め横断をする如く右折を開始し、そのまま右折を継続するうち後方から進行してきた被告の車両に、道路左端より二・八メートル、交差点の直前の地点で衝突された。

(三)  被告は、普通乗用車で右道路を時速約五〇キロメートルの速度で西進していたが、交差点手前約二四メートルの地点で前方約一〇メートルに原告の車両をみてやや道路中央に寄り、さらに道路中央よりやや右に寄つて原告車の追越しにかかり、交差点の手前約一二メートルで原告車の右折に気づき、急制動とともに右転把するも及ばず、車両左前部を原告車に衝突させた。

(四)  なお原告は、前夜遅くまで飲酒し、事故当時酒の匂いを残していたが、事故直後アルコール検知を受けても酒気帯びは確認されなかつた。

3  右認定事実により検討するに、

(一)  原告には、本件交差点を右折するにあたり、予じめ道路中央に寄つたうえ、交差点の中心の直近内側を徐行して右折すべきところ、交差点手前約四・三メートルから斜め横断の如く右折をはじめている点においてその過失を認めることができ、またこのような右折方法をとつた場合には右折開始前に後方確認をするだけでは足りず、なおひきつづき後方の安全確認を怠つてはならないというべきである。

(二)  しかしながら、被告は、交差点手前三〇メートル以内の追越し禁止箇所で追越しを開始している点において、基本的な過失があるというべきである。被告本人尋問の結果(第一回)では追抜きにすぎないと供述するが、被告は道路中央を右に越えて原告車を抜き去ろうとしていたもので、追越し行為とみるほかはない。したがつてこの場合、右折する原告車にある程度の右折方法の過失があつても基本的に追越車が劣後すべきであると言わなければならない。なお、被告は高速車両の進路優先を主張するが、追越し禁止箇所における追越し車には道路交通法二七条二項の適用はないものというべきであり、この主張は失当である。

(三)  被告は、原告の右折合図不履行を主張するが未だこれを認めるに足りる証拠は十分でなく、原告の酒気帯び運転についてもこれを認むべき証拠はない。

4  以上の原・被告の本件事故における過失割合を判断するに、被告の過失が八割、原告の過失が二割とみるべきであり、被告が賠償すべき原告の損害額は右割合をもつて定められるべきである。そうであれば、前示原告の損害額五、二四九、三九二円のうち、その八割にあたる四、一九九、五一三円が被告の負担すべき責任の範囲である。

五  損害の填補

請求原因5の事実中、原告が自賠責保険より一、七九〇、九二〇円の給付を受け、被告より三、五〇〇円の支払を受けたことについては争いがなく、原本の存在とその成立に争いのない甲第七号証、原告本人尋問の結果(第一回)および弁論の全趣旨によれば、右の他に原告が自賠責保険より二一九、〇八〇円の給付を受けていることが認められる。したがつて、右填補額合計金二、〇一三、五〇〇円を原告の前記過失相殺後の損害額四、一九九、五一三円から差引くと損害残額は金二、一八六、〇一三円となる。

六  弁護士費用

原告が弁護士たる原告訴訟代理人に本件訴訟を委任していることは当裁判所に顕著な事実であり、本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金二〇〇、〇〇〇円とするのが相当である。

七  以上のとおりであるから、原告は被告に対し右損害合計金二、三八六、〇一三円及び右のうち弁護士費用を除く金二、一八六、〇一三円に対する本件不法行為による損害発生後である昭和五三年一〇月一〇日から支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を求めることができる。よつて、原告の本訴請求は右の限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大内捷司)

(別紙) 計算式

(1) 94,258(円)×(11+17/31)(月)=1,088,528(円)

(2) 94,258(円)×12(月)×0.09×9.2151=938,084(円)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例